「人生100年時代」はバズワード?


相川浩之

日経夕刊の記事

  2018年7月7日付日経夕刊の親子スクール「ニュースイチから」というコーナーで、「人生100年時代って本当?」という記事を書いた。
 保険会社や銀行、証券会社、住宅販売の企業などがCMで「人生100年時代」という言葉を使い、老後の備えとして金融商品や住宅に投資しましょうと呼びかけている。

 「人生100年時代はバズワードではないか」と思っていた。バズワードとは「いかにも専門性、説得力のある言葉に聞こえていても、曖昧な定義のまま広く世間で使われてしまう用語・造語・フレーズのこと」(グロービス経営大学院MBA用語集)である。
 その点の注意喚起をしたいと思うと同時に、バズワードで終わらせたくないという気持ちがあり、中学生向けにニュースを解説する紙面「ニュースイチから」で取り上げた。

 紙面の内容をざっと紹介すると––。

  • 日本人の平均寿命は90歳に達していない(2020年の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳)。
  • 国立社会保障・人口問題研究所は、2015(平成27)年国政調査の確定数が公表されたことを受けて、同年を出発点とする2065年までの全国将来人口推計を行っている(平成29年推計)。その中位推計によると、2065年時点の男性の平均寿命は84.95年(歳)、女性は91.35年(歳)となる。
  • リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著『ライフ・シフト〜100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社、2016年11月3日発行)がきっかけになって、人生100年時代のことを考えようという機運が高まった。
  • 人生100年時代の働き方として、一つの仕事を続けた後、いったん、その仕事を辞めて「学び直し」をして、別な職種に就く。現在のメインの仕事の傍らで、別の仕事をこなす「副業」やボランティアに取り組む––などが想定されている。

 「人生50年時代の価値観とライフスタイルのまま人生90年(人生100年といってもいい)を生きる結果、定年退職後の人生設計がなく、長くなった人生を持て余している人は実態として少なくありません」(『東大がつくった高齢社会の教科書』、かっこ内は筆者の注)という問題がいまの社会にあることを意識して、どうすればいいかを考える必要があり、その際には「人生100年時代」という言葉は便利なのだ。

 『ライフ・シフト』が出版されるまでは、「人生100年時代」ではなく「超高齢社会」が取り組むべきテーマとされていた。800万人いると言われる1947年から1949年にかけて生まれた「団塊の世代」がすべて75歳以上になる2025年に医療や介護の需要急増に追いつけないという「2025年問題」が生じるとされ、それを解決することが喫緊のテーマとされた。

 しかし、この問題設定はやや視野が狭い。高齢者ばかり見ていても問題は何も解決しないからだ。老後の最大の生活保障である「年金」をしっかりもらえるようにするために、現役時代、どんな働き方をすべきなのか。会社を辞めてからも通用するスキルはどのように磨いていくべきなのか。生涯を通じて、どんなお金の使い方を考えるべきなのか、などは若いうちから考えておかなければならないテーマだ。また、長寿が問題なのではなく、高齢者を支えきれない「少子化」が問題だとすれば、どのような対策を打つべきなのか、早くから真剣に取り組むべきだった(もう手遅れ気味ではあるが、なんとかしなければならない)。少子化の原因を解消するためには、男女平等の社会の実現や、全世代にわたる社会保障の充実が必要ではないか—など、検討すべきことは「各世代にまたがっている」のだ。

 だからこそ、バズワードっぽい「人生100年時代」をあえてテーマにしたいと思っている。


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