皐月の暮らし


~ 流れる風の赴くままに ~

「吹かば にほいおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」

寒く吹きつける北風が春を告げる風に変わると思い出すのが、この歌。まだ冷たかった春風がすっかり心地よく感じられる季節になりました。

春は青、夏は赤、秋は白、冬は黒…季節にはそれぞれ色があります。

「青春」は再生・吹きを意味し、夏の赤は「朱夏」で陽気・熱暑を意味し、秋の白は「白秋」‥静寂の意味、冬の黒は「玄冬」と云い、胎動を意味し、春へと輪廻するのです。

5月生まれのせいか、一年の中で私はこの5月の風が一番好きです。春の青が初夏へと移りゆき、グッと濃さを増した、5月の眩い翠(みどり)を潜り抜けるように吹く「薫風」という呼び方はこの季節にぴったり。諸行無常というけれど、この季節の風も空の碧さも雲の流れも、太古の昔から変わることなく巡り巡ってきたのでしょう。何千年と遡った私たちの先祖も、巡りゆく季節の中で、大空を仰ぎ、肌を撫でる風を感じ、雨音を子守歌に眠り、昇る陽の光に目覚める…。そう想うと、私たちはいつも何かと繋がっているような気がして、とても勇気が湧いてきます。

転勤族でいらっしゃるお客さまから、「夫が金沢へ転勤することが決まり、GWにお引越しをするので最後にカットに伺いたいです」とご連絡が。初めて私のサロンにお越しくださったのも2年前のちょうどこの時期でした。読書好きだという彼女とは本の話題に始まり、似通った感性からお話が弾み、毎月のカットのお時間は話尽きることなくあっという間でした。いつか‥と覚悟はありましたが、やはり淋しくなります。

そんな彼女の新天地での生活に想いを巡らせ、ふと目にした素敵なコーヒーカップをプレゼントにとご用意し、最後のご来店を心待ちに…。とはいえ、このありがちなプレゼントに、自分の贈り物下手を益々感じないではいられませんでした。

半月ほど前に、いつもお招きしている狂言師の奥さまから、“とんでもなく可愛くて女心をくすぐるような缶”入りのお菓子を頂いたばかりで、こんなさりげなく素敵な贈り物ができる女性ってホントいいなぁ~と感激したばかりなのでなおさら‥。

ところがタイミングというのは本当に絶妙で、信じられない奇跡が起こったのです。

お客さまのご来店を2日後に控えた日の夕方のことです。なんとInstagramを見ていたら、その“とんでもなく可愛くて女心をくすぐるような缶”がタイムラインのバナーに出てきたのです!こんなことってある?(笑)

最近のスマホは心まで読めるものかと驚きましたが、すぐさまオンラインで発注。「大切な方がお引越しをされるので、可能でしたら明後日午前中までにお届け頂けると有難いです」とメッセージを添えて…。

翌日の発送で翌々日の午前中着に間に合わせてくださったお陰で、コーヒーカップとその“とんでもなく可愛くて女心をくすぐるような缶”入りのお菓子を無事お渡しすることが叶ったのです。彼女がそのプレゼントを胸に大切に抱きしめて、「お引越しの片付けを終えたら、新しいお家で新しい風景を見ながら、ゆっくりとコーヒーブレイクします♡ この缶には‥どんな宝物を詰めようかしら?」

金沢はどんな風が吹いていますか?文化度の高い新しい街での暮らしが、きっとまた彼女の人生をより豊かなものにしてくれることでしょう。コロナ禍で外出もままならなかった高崎での暮らしの中でも、楽しみを見つけて笑顔を絶やさなかった彼女と共有した、短くも温かな時間は私の中から消えることはありません。金沢にいらっしゃるうちに一度訪れる機会を作りたいと思います。どうぞお元気で…。

彼女と入れ替わりにサロンの扉を開けて入って来られた初めての男性のお客さま。つい最近、転勤でこちらへ越してきたばかりなのだとか…。

サロンの中にいても新しい風を感じることができるのです。小さな隠れ家みたいなサロンを見つけて訪れてくださるお客さまと共に運び込まれる色とりどりの風で毎日がドラマティック!お一人ずつと向き合う時間が私の人生を積み上げているような気がします。

ドラマティックといえば…、その後お友だち用にと例のお菓子を発注しようにも、ずっとSOLD OUTのまま。何とも、開かずの間が瞬間だけ開いたような不思議なタイミング。こんなこともあるのです。

文・写真 吉村巳之


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