松原広美
オペラ歌手
東京芸術大学大学院オペラ科修了。ミラノ・ヴェルディ音楽院卒業。ロータリー、伊政府、安田生命、文化庁より助成を得て、5年間伊留学。「ジュリアス・シーザー」で二期会デビュー。ミラノ・ロゼトゥム劇場にて「カルメン」主役。その後、日生劇場、東京室内歌劇場に出演。二期会創立60周年「フィガロの結婚」出演。米国にて「第九」「かぐや姫」出演。新国立劇場にて文化庁演奏会。Kバレエ「第九」で熊川哲也と共演。藤原歌劇団では「フィガロの結婚」「ジャンニ・スキッキ」「トロヴァトーレ」、日本オペラ協会では「紅天女」「キジムナー」等出演。第1回ロシア声楽コンクール優勝。日本オペラ協会会員。藤原歌劇団団員。
魂レベルで歌う身体作りが必要なのだと気づく
最近、私は自分の人生が大きく変わるほどの大きな体験をしました。
それは今まで当たり前に使っていた身体が、使えなくなるのではないかという恐怖が伴うものでした。
もちろん、大事には至らなかったので、今があるわけですが、
その時に私のすべてがリセットされたような気がしています。
私はその体験を通して、改めて、自分はこの道で生きていくと言う思いを強くしました。
なぜ自分だけ次から次と試練が押し寄せてくるのだと、気持ちが落ち込むこともあったのですが、それは全て私を今のこの道へ誘うためのものなのだと自分流に解釈して前を向くことができるようになりました。
私の源流はイタリアに
私の音楽家としての基礎はイタリアのヴェルディ音楽院に4年間留学した時に培ったものだと思っています。
イタリアでは、ミラノ・スカラ座はじめオペラ公演を何十回と見て、美術館にも足を運び、美しいものを肌で感じることができました。
20世紀後半を代表するメゾソプラノ、フィオレンツァ・コッソット先生と学べたことは、私の人生の財産です。
ヴェルディ音楽院の声楽科には日本人は私だけ、まわりは韓国人やロシア人が多く、なかなか自信が持てなかった時期もありました。
しかし、まだ無名の私は日本では誰も知らない。このままでは伝えるべき場所がないと思い、東京芸大大学院に進みました。
そこで、日本が誇るプリマ・ドンナ、林康子先生と出会い、学べたことも私の財産となりました。
その後、二期会の研修所から二期会の会員になり、10年在籍。
途中、文化庁の派遣により、2度目の留学でローマにも1年間行きました。
2015年に藤原歌劇団に移籍し現在に至っています。
オペラは皆さまご存じの取り総合芸術です。
音楽に加え、演劇要素、舞台美術 華麗な衣装などで観客を魅了していきます。歌手の圧倒的な声量は声帯だけから生まれるものではなく、身体全体を使って生み出していくものです。
生まれ持った才能だけを維持していけばよいというものではありません。
思えばずっと、私は歌い手として日々学び、技術を磨き続けてきたし、自分との戦いだったようにも思います。
技術を昇華させると、降りてくる感覚と出会う
私は身体と声帯を使って表現するオペラにおいて、
過酷と思えるほど、自分自身を役に追い込み、完成された作品のカタチに仕上げるために感覚を研ぎ澄ませて仕上げていきます。
ある一線のところまで技術を高めていくと、自分の中に作曲家が伝えたいものが降りてくるという感覚に出会うのです。
そのためには、
魂レベルで歌う身体作りが必要なんだと言う事もわかりました。
最近は超健康オタクになって、食生活改善を始めたところ、減量にも成功しました。
食べ物は心と身体を作るのだと言う事にも気が付きました。
人生が変わるほどの大きな体験も
リセットするべき時期を教えてくれたような気がしています。
新しい自分に出会うことができて、新しい自分を見てもらえるのではないかと思っています。
私は、改めてオペラと自分の関係は切り離すことはできないし、
オペラによって私は生かされているのだという実感を持ちました。
人生を豊かに楽しむと言う事も忘れてはいけないですね。
オペラの魅力は
オペラの魅力をひとことでいうと人間的なアナログのドラマだということです。
歴史的背景は曲によってもいろいろですが、生身の人間がもつ感情はどの世界でもどの時代でも同じです。
愛や憎しみそして苦しみ 喜びを表現するオペラはある意味お茶の間のドラマと共通するものがあると私は思っています。
ただ少し違うのは、そこにオーケストラの音楽と登場人物のセリフが重なり、一体化した華麗で荘厳な舞台が世界を作り上げているところです
そのあたりを理解していただくともっと魅力がわかっていただけるのかなと思います。皆さまにもっと観ていただく努力をしていきたいと考えています。
後に続く人へ
「情熱」が一番大切!
練習や勉強を続けるにも、プロとして舞台に立ち続けるにも情熱が必要です。
ずっと音楽家でいるためには、勉強で研鑽を積む必要があるからです。
オーディション、コンクール、試験など、チャレンジし続けるのが音楽家の宿命みたいなものです。
音楽をやり続けるには、自分自身への投資も必要になりますが、奨学金などを受けることも出来るので、諦めずにチャレンジしてほしいと思います。